毎晩、塾から帰ってくる我が子の背中を見るたび、胸が締め付けられるような思いをしていませんか。
重たいリュック、目の下のクマ、模試の結果に一喜一憂する日々。
そんな我が子を救いたくて、神社で、あるいは寝る前の布団の中で、こう祈っているかもしれません。
「どうか、第一志望に受かりますように」
親として痛いほど分かる、その切実な祈り。
しかし、残酷な事実をお伝えしなければなりません。
**その「受かりますように」という祈りが、実は一番のブレーキになり、合格を遠ざけているとしたら?**
「そんな馬鹿な」と思われたでしょうか。でも、これは精神論ではなく、脳の仕組み(メカニズム)の話です。
一生懸命な親子ほど陥りやすい、脳の「怖い勘違い」についてお話しします。
この記事を読み終える頃には、あなたの不安は消え、お子さんの脳は「合格」へと自動的に走り出しているはずです。
なぜ「神頼み」をするほど、合格が遠のいてしまうのか
私たちは幼い頃から「願えば叶う」と教えられてきました。しかし、脳科学の視点、特に脳の司令塔とも言える機能から見ると、その常識は180度間違っています。
なぜ、必死に願えば願うほど、結果が出なくなるのでしょうか。
脳は「現状」を死守する生真面目な公務員
人間の脳には、ホメオスタシス(恒常性維持機能)という強力な本能が備わっています。これは、体温を36度台に保つのと同じように、「今の状態」を維持し、変化を嫌う性質のことです。脳にとって、変化は「死のリスク」だからです。
この脳の性質は、思考においても同じように働きます。
脳は、あなたが入力した言葉を、そのまま「現実」として認識し、それを維持しようとします。
ここで、「受かりますように」という言葉を分解してみましょう。
「受かりますように」と願う心理の裏側には、**「今はまだ受かっていない」「今のままでは足りない」という強烈な現状認識**があります。
あなたが祈るたび、脳にはこう入力されています。
「私は『合格していない状態』である」と。
脳という生真面目な公務員は、そのオーダーを忠実に守ろうとします。
「了解しました。『合格していない状態』を維持しますね」
その結果、勉強していても集中できない、本番でミスをする、なぜかやる気が続かない……といった現象を引き起こし、「合格していない自分」という現状を死守しようとするのです。これが、努力が空回りする最大の原因です。
「受かりますように」は「今はダメです」という自己暗示
さらに恐ろしいのは、脳にある **RAS(網様体賦活系)** というフィルター機能です。
RASは、膨大な情報の中から「自分にとって重要だと認識した情報」だけを拾い上げる、Google検索のようなシステムです。
例えば、「赤い車が欲しい」と思った瞬間から、街中で急に赤い車ばかりが目につくようになった経験はありませんか? あれがRASの働きです。
では、「受かりますように(=今は受かっていないから不安だ)」と入力し続けるとどうなるか。
RASは「不安」や「受からない理由」を検索し始めます。
* 「倍率が高い」というニュース
* 「模試のE判定」という事実
* 「解けなかった問題」の記憶
これらばかりが目に飛び込み、「ほら、やっぱり受からない」という証拠集めを始めてしまうのです。
親御さんが不安な顔で祈れば祈るほど、お子さんの脳のRASは「不合格へのルート」を探索し、その道を進ませてしまいます。
努力不足ではありません。能力不足でもありません。
ただ、「ナビへの入力ミス」をしていただけなのです。
脳のナビゲーションシステム(RAS)を「合格モード」に書き換える方法
では、どうすればこの悪循環を断ち切り、脳を味方につけることができるのでしょうか。
答えはシンプルです。脳のカーナビに、正しい方法で目的地を入力し直せばいいのです。
カーナビに「目的地」を入力する唯一のルール
車のカーナビを操作するときのことを想像してください。
「東京駅に行きたいなぁ……」と画面の前で呟いても、ナビは反応しませんよね。
また、「東京駅に行けたらいいのに」と入力しても、ルート案内は開始されません。
ナビが動くのは、**「目的地:東京駅」と確定させた瞬間**だけです。
脳も全く同じです。
「〜したい」「〜できたらいいな」という希望的観測では動きません。
**「私は〇〇中学(高校・大学)に合格した」**
**「私は〇〇学校の生徒だ」**
この**「完了形」**あるいは**「断定形」**こそが、脳のナビゲーションシステムを作動させる唯一のスイッチです。
「まだ受かっていないのに、そんな嘘をつくの?」と違和感を持つかもしれません。
実は、その**「違和感」こそが成功の鍵**です。
脳には「認知的不協和」という性質があります。これは、「自分が信じていること」と「目の前の現実」にズレがある時、その不快感を解消しようとする働きです。
「私は合格した(合格している)」と完了形で強く思い込む(入力する)。
しかし、現実は「まだ勉強中の受験生」。
脳はこのズレを埋めるために、パニックになります。
「あれ? 彼はもう合格しているはずなのに、知識が足りていないぞ? おかしい!」
そして、脳は現実(知識不足)を、入力された目的地(合格済み)に合わせようと、猛烈なスピードで働き始めます。
これが、「脳の自動操縦モード」です。
「完了形」で嘘をつくと、脳は現実を合わせにくる
完了形でゴールを設定した瞬間、先ほどのRAS(検索機能)の働きがガラリと変わります。
今まで「できない理由」ばかり探していた脳が、「合格している自分」に必要な情報だけを集め始めます。
* 今まで難しく見えていた参考書の解説が、スッと頭に入ってくる。
* なんとなく手に取った問題集から、本番で似た問題が出る。
* テレビや会話の中から、ヒントとなるキーワードが飛び込んでくる。
* 「勉強しなきゃ」という義務感が、「(合格者として)これくらい知っておくのは当然」という感覚に変わる。
これはオカルトでも引き寄せの法則でもなく、脳のフィルター機能の再設定によるものです。
「合格した」と決めることで、お子さんの脳は、合格までの最短ルートを勝手に計算し、身体を動かし始めるのです。
苦しい努力で坂道を登るのではなく、エスカレーターに乗ったように、自然と行動が変わっていく。これこそが、脳を正しく使った「爆発的成長」の正体です。
【実践編】親子で未来を先取りする「予祝」の儀式
理屈は分かりました。では、具体的に今日から何をすればいいのか。
それは、言葉を変えるだけでなく、「感情」をセットにすることです。
脳は、論理よりも「感情」や「イメージ」を強く記憶します。特に「未来記憶」を作ることが重要です。
そこでお勧めしたいのが、日本古来の願望達成法でもある**「予祝(よしゅく)」**です。
簡単に言えば、「合格したことにして、先にお祝いしてしまう」儀式です。
感情を先取りして「未来の記憶」を作る
今夜、お風呂上がりでも、夕食の後でも構いません。お子さんと向き合って、こう切り出してください。
「ねえ、ちょっと変なことしていい?」
そして、合格発表の当日を演じてみるのです。
掲示板、あるいはWebサイトの画面に、自分の受験番号を見つけた瞬間。
「あった……! あったよ!」
「うわあああ! やったあああ!」
「おめでとう! 本当によかったね!」
ハイタッチをして、抱き合って、涙を流すフリをしてください。
その時、どんな感情が湧き上がってくるでしょうか?
安心感、誇らしさ、支えてくれた人への感謝、そして何より、「ああ、終わったんだ」という深い安堵。
この**「やったー!」「ありがとう!」という高揚感と安堵感**を、五感を使ってリアルに味わい尽くすのです。
「合格祝いは何を食べる? 焼肉? お寿司?」と、具体的な店名まで決めて盛り上がってください。
脳は、現実と想像の区別がつきません。
臨場感たっぷりに「合格した喜び」を味わうと、海馬(記憶の中枢)はそれを「未来の記憶」として強烈に刻み込みます。
すると、翌朝目が覚めた時、お子さんの世界は変わっています。
「合格を目指す不安な受験生」ではなく、
**「すでに合格が決まっている未来から、今の時間を過ごしに来ている自分」**
として机に向かうことになります。
このセルフイメージの変化こそが、最強の合格メソッドです。
もう、神様に「お願いします」とすがるのはやめましょう。
それは「私には力がない」という宣言と同じです。
代わりに、こう呟いてください。
**「合格しました。ありがとうございました」**
過去形・完了形で、先に感謝を伝えるのです。
未来は、向こうからやってくるものではありません。私たちが今、ここで決定し、迎えに行くものです。
不安になるのは、お子さんが本気で挑んでいる証拠。
でも、その不安というガソリンは、もう「完了形」というエンジンを回すためだけに使ってください。
あなたのお子さんは、大丈夫です。
だって、もう脳の中では「合格」しているのですから。
あとは、現実が追いついてくるのを、ワクワクしながら待つだけです。

