【2025年崩壊ドミノ】過去最多の倒産から読み解く、親が知るべき「生き残る塾」の条件

いつもの風景から「あの看板」が消えていく

 「あれ? ここにあった学習塾、いつの間にかなくなってる……」

 ふと街を歩いているとき、そんな光景に出くわすことが増えていないでしょうか。実は今、子供たちの学びを支えてきた学習塾業界で、静かですが、極めて深刻な異変が起きています。

 2025年、学習塾の倒産件数が過去最多を更新しました。その数、なんと46件。これはあくまで負債額が1000万円以上で法的整理を行ったケースの速報値ですから、表には出てこない小さな教室の廃業や撤退を含めれば、実際の影響はもっと広範囲に及んでいるはずです。

 かつては「不況に強い」と言われた教育産業ですが、なぜ今、これほどまでに経営破綻が相次いでいるのでしょうか。特に衝撃的なのは、倒産した塾の9割近くが、私たちの生活圏に密着していた小規模な経営だったという点です。さらに、中小規模の塾の約4割が赤字経営に陥っているというデータもあります。

 今回は、2025年に浮き彫りになった学習塾業界の「三重苦」と、そこから見えてくる「生き残る塾・消える塾」の決定的な違いについて、少し掘り下げてお話ししたいと思います。お子さんの教育環境を考える保護者の方にとっても、これは決して他人事ではない話なのです。

1章:中小塾を襲った「三重苦」の正体とは?

 2025年、多くの学習塾経営者が頭を抱えたのは、これまで経験したことのない複合的な苦境でした。業界ではこれを「三重苦」と呼ぶ声も上がっています。具体的には、「少子化によるパイの縮小」「講師人材の確保難」、そして「物価高騰による教育費の選別」です。

 少し前まで、学習塾の経営といえば、ある程度の「勝利の方程式」が存在しました。良い先生を揃え、地域にチラシを撒き、看板を掲げれば、生徒は自然と集まってくる――そんな旧来型のビジネスモデルが通用していたのです。しかし、2025年はその常識が音を立てて崩れ去った年となりました。

 特に中小規模の塾にとって致命傷となったのが、急激な物価高です。
 ご存知の通り、電気代をはじめとする光熱費は高止まりしています。塾にとって、教室の照明や空調は生命線ですから、この固定費の上昇はダイレクトに収益を圧迫します。さらに都市部ではテナント料(家賃)も上昇傾向にあり、ただ「教室を開けているだけ」でも、以前より遥かにお金が出ていく構造になってしまったのです。

 一方で、肝心の売上である「授業料」はどうでしょうか。
 ここが非常に難しいポイントです。物価高に苦しんでいるのは塾だけではありません。生徒を通わせるご家庭もまた、日々の生活費の高騰に悲鳴を上げています。そんな中で「電気代が上がったので授業料を上げます」と簡単に言えるでしょうか?
 地域密着型の塾であればあるほど、ご家庭の懐事情をよく理解しているため、値上げに踏み切れず、結果として塾側がコスト増をすべて被る形で「赤字の常態化」に陥ってしまったのです。

 

第2章:「タイパ」重視の学生たちと、集まらない講師

 お金の問題以上に現場を疲弊させたのが、「人がいない」という現実です。学習塾にとっての商品は「授業」であり、それを生み出すのは「講師」です。しかし今、この講師のなり手がかつてないほど不足しています。

 これには、最低賃金の大幅な引き上げという経済的な要因に加え、現代の大学生特有の価値観の変化が大きく関わっています。それが「タイパ(タイムパフォーマンス)」志向です。

 ※タイパとは:
 「費やした時間に対して、どれだけの効果や満足度が得られるか」を重視する考え方です。「コスパ(コストパフォーマンス)」の時間版と考えると分かりやすいでしょう。

 昔であれば、塾講師のアルバイトは「教える喜びがある」「将来の役に立つ」として人気職種の一つでした。しかし、今の学生たちは非常にシビアです。
 「授業の予習や、報告書の作成など、時給が発生しない拘束時間が長すぎる」
 「責任が重い割に、効率よく稼げない」
 こうした判断から、塾講師という仕事を敬遠する動きが顕著になっているのです。

 塾側としては、講師を確保するために時給を上げざるを得ません。さらに、求人を出してもなかなか応募が来ないため、求人広告費もかさみます。人件費と採用コストの高騰。これが、中小塾の経営体力をじわじわと、しかし確実に削り取っていきました。

 

第3章:「チラシ」はもう効かない? 激変した集客ルール

 「生徒が集まらない」という悩みも、質が変わってきました。
 かつては新聞の折込チラシが最強の集客ツールでした。テスト前や新学期シーズンにチラシを入れれば、それを見て電話が鳴ったものです。しかし、新聞購読率が低下し、情報の入手経路がスマートフォンに移行した現在、チラシの効果は激減しています。

 代わって必須となったのが、SNSの運用やリスティング広告などのデジタルマーケティングです。

 ※リスティング広告とは:
 GoogleやYahoo!などで検索した際、検索結果の画面上部に表示される広告のことです。「地域名+学習塾」などで検索している意欲の高い層にアプローチできます。

 問題は、このデジタル化への移行にお金とノウハウが必要だということです。競合もこぞってネット広告を出すため、クリック単価は上昇を続けています。現場からは「生徒1人を獲得するための費用が、数年前の2倍にまで跳ね上がった」という悲鳴も聞こえてきます。
 
 資金力のある大手塾なら専門のチームを組んで対策できますが、塾長が一人で授業も経営もこなしているような個人塾では、高度なデジタル戦略に対応するのは至難の業です。「看板を出していればなんとかなる」時代は終わり、戦略的に情報を届けなければ存在すら知ってもらえない。そんな残酷な時代に突入したのです。

 

第4章:明暗くっきり。「勝てる大手」と「負ける中小」の二極化

 さて、ここまで厳しい話ばかりをしてきましたが、すべての塾が倒産の危機にあるわけではありません。実は、業界全体を見渡すと、残酷なまでの「二極化」が進んでいます。

 中学受験や難関高校受験をターゲットにした、いわゆる「大手進学塾」の多くは、実は好調を維持しています。2024年度の業績を見ると、売上高50億円以上の大手塾では、減益こそあれど9割以上が黒字を確保しました。
 なぜ大手は強いのでしょうか。

 一つは、圧倒的な「ブランド力」です。「あそこに行けば合格できる」という信頼があるため、強気な価格設定が可能です。物価高の影響でコストが上がっても、それを授業料や季節講習費、オプション講座、さらにはAI教材のシステム利用料やアプリ手数料といった形で価格転嫁し、増収につなげることができます。教育熱心なアッパー層(富裕層や高所得層)をターゲットにしているため、「子供の教育には糸目をつけない」という親心にも支えられています。

 一方で、苦境に立たされているのは、地域密着型の補習塾や、中堅規模の個別指導塾です。
 こちらのターゲット層は一般的なご家庭が多く、物価高の影響をモロに受けています。生活防衛のために「習い事の選別」が始まったとき、真っ先に削られる対象になりやすいのです。
 「成績がすごく上がるわけでもないし、家計も苦しいから、一旦塾はやめようか」
 そう判断されてしまえば、ひとたまりもありません。売上高5億円未満の中小塾では約4割が赤字というデータは、まさにこの構造的な格差を物語っています。

 

第5章:2026年への展望。「学力向上」だけでは生き残れない

 では、中小規模の塾に勝ち目はないのでしょうか?
 2026年に向けて、生き残りをかけた戦いはさらに激化すると予想されますが、そこには新しい兆しも見え始めています。

 一部の小規模塾では、大手には真似できない「超・個別最適化」を武器に、活路を見出そうとしています。
 システム化・効率化された大手塾では、どうしても生徒一人ひとりの細かなメンタルケアや、日々のモチベーション管理までは手が回りきらないことがあります。そこを徹底的にフォローするのです。「勉強を教える」だけでなく、「子供の心の居場所になる」「親の悩みに徹底的に寄り添う」といった、人間味のある付加価値を提供できる塾は、依然として強い支持を集めています。

 しかし、油断はできません。大手塾もまた、その巨大な資本力を活かして、新しい領域に手を広げているからです。
 最近のトレンドは、安価な「AI自立学習コース」の新設です。膨大な入試データとICT(情報通信技術)投資を背景に、先生が教えるのではなく、AIが生徒に最適な問題を出し続けるスタイルです。これにより人件費を抑え、低価格なコースを実現しています。
 これはつまり、これまで中小塾が担っていた「中堅校狙いの層」や「学校の補習層」を、大手が低価格プランで根こそぎ奪いに来ていることを意味します。

 「難関校を目指すなら大手、補習なら地元の塾」
 長年続いてきたこの棲み分けは、今まさに崩壊しつつあります。
 
 さらに、入試制度自体も変化しています。適性検査や面接、小論文など、単なるペーパーテストの点数だけでは測れない入試が増えてきました。これからの塾は、「学力を上げる」ことは大前提として、それ以上の「何か」を提供できなければ選ばれません。

 

おわりに:親として、どう塾を選ぶべきか?

 2025年の倒産ラッシュは、単なる経済ニュースではなく、教育の現場で起きている地殻変動の現れです。

 もし今、お子さんの塾選びで迷っているなら、あるいは現在の塾に不安を感じているなら、建物の綺麗さや合格実績の数字だけでなく、以下の点に注目してみてください。

* **その塾は、ICTやAIなどの新しいツールを適切に取り入れているか?(あるいは、それに対抗できるだけの強烈な人間的魅力があるか?)**
* **先生は疲弊していないか? 生徒と向き合う時間は十分にあるか?**
* **「成績を上げる」以外の付加価値(メンタルケアや進路指導の深さ)があるか?**

 独自の強みや付加価値を見出せない塾の淘汰は、2026年にかけてさらに加速するでしょう。
 変化の激しい時代だからこそ、子供たちには「最後まで伴走してくれる」体力と情熱を持った塾を選んであげたいものです。

 「近所の塾」の倒産ニュースは、私たち大人に対して、「教育に何を求めるのか」を問い直すきっかけを与えているのかもしれません。