大谷翔平の親の子育てに学ぶトップアスリートの育て方の鉄則

世界のトップアスリートの親が守ってきた「子育ての鉄則」とは?

 ドジャースとの10年契約で約1000億円の史上最高額の移籍を果たした大谷翔平選手。日本だけでなく、世界のスポーツ界にその名を刻んだ彼は、どんな環境で育ったのだろうか。他のスポーツ選手の家庭と比較しながら、大谷家の「子育ての鉄則」を探る。

怒鳴らない、否定しない

 大谷翔平だけでなく、’19年の全英オープンで見事な優勝を飾った渋野日向子や、フィギュアスケートの「無敵の王者」であった羽生結弦など、近年、世界の最高峰で活躍する日本人アスリートが目立っている。

 彼らは、どうやって大きな舞台で力を発揮できるようになったのか。

 多くの「超一流選手」の親にインタビューを行い、本『天才を作る親たちのルール』を執筆したスポーツライターの吉井妙子氏は、「両親の態度に共通するものがある」と話す。

 「それは、怒鳴らないこと、そして子供の考え方を否定しないことでした。『どうしてできないんだ』『お前は駄目だ』と言われると、子供は深いコンプレックスを抱えてしまう。その二つを『しない』ことで、子供たちの個性が伸びるのです」

 〈(昔の親は)何をしてあげようかと思っていた。でも今の親は『何をしないであげるか』を考えなくてはならない〉

 ’07年に亡くなった教育心理学者・河合隼雄氏は、著書で、こう記している。

 塾に通わせて良い学校に入れる。ピアノを習わせて音楽の才能を育てる–。子育ては「足し算」の考え方に陥りがちだ。

 しかし、「超一流」の親たちの行動を詳しく見てみると、吉井氏が指摘するように、「何をするか」よりも「何をしないか」に気を配っていることが分かる。

 そもそも、「やりたいことを楽しませる」が信条だった大谷の父・徹さんは、息子に「野球の練習をしろ」と言うことはなかった。

 野球を楽しませる…。それは、父と一緒に朝から晩までバッティングセンターに通っていたイチローのような、昔のプロ野球選手の成功物語とは違う考え方だ。

 大谷は、子供の頃から高い目標を、恐れることなく口に出していた。

 その背景には、「子供が思ったことを大人の顔色を気にせずに話せるように」と願っていた両親の思いがある。

 徹さんと母・加代子さんは、大谷が小さかったころに一つの決意をした。

 それは、「子供の前で絶対に夫婦喧嘩をしないこと」だった。

 「親が喧嘩をすると、居場所がなくなって、顔色をうかがうようになる。ご両親は家の雰囲気を常に明るくして、子供たちがなんでも話せる環境を作っていた。おかげで、大谷選手は反抗期もなく、中学2年生までお父さんとお風呂に入っていたと聞きました」(吉井氏)

 無理やり練習させず、家庭は和やかに。これは、女子ゴルフの渋野の家も同じだった。

 渋野の父・悟さんは、以前この雑誌のインタビューでこう答えている。

 「『練習に行く? 』と聞いて、本人が乗り気でないときは、『じゃあ、今日は休んでいいよ』と何も強制しなかった。尻を叩いて『練習に行け! 』なんて言ったことは、一度もないです」

 ゴルフは、父親が経験者であれば、子供のスイングやコーチの選び方にまで口を出すことが多い。

 しかし、渋野家では、悟さんはコーチの指導に一切干渉しなかった。

 「コーチに教わったことと家で教えることが違っていたら、子供は必ず混乱して、上達が遅れてしまう。だから、子供が教わってきたことには一切口出しはしないんです」(悟さん)」

 世界のトップアスリートの親たちは、子供のやりたいことを楽しませることを大切にしてきました。

 怒鳴らない、否定しない、喧嘩しないという「しない」ことに気をつけて、子供の個性や自信を育ててきました。また、練習や指導に関しても、強制や干渉をせず、子供の自主性を尊重してきました。

 これらの「子育ての鉄則」は、大舞台で力を発揮できるメンタリティを形成するのに役立ったと言えるでしょう。

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