そのニュースは、私たちに「言い訳」をさせてくれなかった
先日、飛び込んできたニュースに、思わずスマホを持つ手が止まった方も多いのではないでしょうか。
フリーアナウンサーの山本モナさんが、なんと司法試験に合格されたというのです。
「えっ、あの山本モナさんが?」
「今、何をしていたんだっけ?」
そんな驚きも束の間、記事を読み進めてさらに愕然としました。彼女は現在、13歳、11歳、6歳という3人のお子さんを育てるお母さん。しかも、この超難関試験に挑むために費やした時間は5年間。
私たち日々の生活の中で、「時間がないから」「子供がいるから」「もう若くないから」と、何かを諦める理由を探してしまいがちですよね。しかし、彼女の今回の合格劇は、そんな私たちの「言い訳」を鮮やかに打ち砕くほど、あまりにも壮絶で、そして清々しいものでした。
ただの「芸能人の成功体験」として片付けるにはもったいない。ここには、現代を生きる忙しい私たちが学ぶべき「タイムマネジメント」と「折れない心」、そして「新しいキャリアの築き方」が詰まっています。
今回は、山本モナさんが語ったインタビューを元に、彼女がいかにしてこの偉業を成し遂げたのか、その「超・隙間勉強法」と「メンタル管理術」を深掘りしていきましょう。
1.なぜ今、弁護士なのか?「親戚の言葉」と「母としての戦略」
そもそも、華やかなメディアの世界にいた彼女が、なぜこれほど過酷な司法試験という道を選んだのでしょうか。
きっかけは「8時間×3年」という教え
彼女の挑戦の背景には、幼少期の刷り込みとも言える記憶がありました。親戚に検察官の方がいて、幼い頃からこう聞かされていたそうです。
「司法試験は『8時間3年』だぞ」と。
これは、「1日8時間の勉強を3年間続ければ合格できる」という意味です。
もちろん、司法試験(※裁判官、検察官、弁護士になるための国家試験。日本で最難関の試験の一つと言われます)は、そう単純なものではありません。しかし、彼女の中には「努力の総量が一定を超えれば手が届く」という心理的なハードルの低さ、あるいは「ゴールが見える道」という認識があったのでしょう。
「自分の人生、このままでいいの?」という問い
3人目のお子さんを出産後、「もうこれ以上出産することはない」と決めた時、ふと訪れた空白。「子供たちが巣立った後、私はどうする?」という問いかけが、彼女を動かしました。
ここでの彼女の視点が非常に現実的で共感を呼びます。
「組織に属する仕事は、子育て中には難しい」
「自分で時間をコントロールできて、かつ挑戦しがいのある仕事は何か?」
その答えが弁護士でした。単なる憧れではなく、「子育てと仕事を両立させるための戦略的選択」として司法試験を選んだのです。この冷静な自己分析こそが、長い戦いを始める前の重要な第一歩だったと言えます。
2.常識破りの「ノマド勉強術」:机に向かうだけが勉強じゃない
さて、ここからが本題です。「8時間×3年」と言われても、3人の子育てをする主婦に、まとまった8時間なんて存在するはずがありません。
では、どうしたのか?
彼女が編み出したのは、徹底的な「隙間時間のハッキング」でした。
「場所を選ばない」という覚悟
彼女の勉強法には、「勉強部屋で静かに集中する」という概念がありません。
車の中、喫茶店、ファミレス、図書館……。
「時間が空いたその瞬間にいる場所」が、彼女の勉強部屋になりました。
これを可能にしたのがデジタルツールです。必要な参考書やテキストはすべてiPadに集約。重たい専門書を持ち歩くことなく、iPadさえあれば、いつでもどこでも「司法試験モード」に入れる環境を構築していたのです。
私たちもよく「カフェに行ったら勉強しよう」と考えがちですが、移動時間すらもったいない。彼女の場合、カフェに行くまでの移動時間や、子供の送迎の待ち時間、そのすべてを勉強に変えてしまったのです。これは、もはや執念と呼ぶべきレベルでしょう。
突発的な事態こそが日常
子育てにはトラブルがつきものです。熱を出した、学校の行事が入った、習い事の送迎が……。
「何時から何時まで勉強する」という固定スケジュールを組むことは、子育て中の親にとっては不可能です。だからこそ、彼女はスケジュールを固定せず、「空いた時間は全部やる」というシンプルなルールを課しました。
これは、完璧主義な人ほど陥りやすい罠へのアンチテーゼでもあります。「予定通りにいかなかった」と落ち込むのではなく、「今空いた! ラッキー!」と切り替える柔軟性。これこそが、彼女を合格へと導いた最大の要因かもしれません。
3.睡眠時間を削る壮絶なルーティンと「朝活」の真髄
とはいえ、物理的な時間は有限です。隙間時間を集めても足りない分は、どう捻出したのでしょうか。
「早起き」という最強の武器
彼女の答えは「朝型へのシフト」でした。
日中、子供の行事などで疲れ切ってしまうと、夜の勉強は効率が落ちます。そこで彼女は、夜は深夜1時か2時には寝て、その代わり「朝4時」に起きる生活を実践しました。
睡眠時間は4〜5時間。
医学的に推奨される睡眠時間より明らかに短いですが、彼女には「合格」という明確な期限と目標がありました。
日中の慌ただしさが始まる前の、静寂に包まれた早朝。この数時間こそが、誰にも邪魔されないゴールデンタイムだったのです。
また、平日に確保しきれなかった勉強時間は、土日にまとめてリカバリー。
「毎日〇時間やる」と決めて守れない自分を責めるより、「1週間単位、1ヶ月単位で帳尻を合わせる」という考え方は、忙しいビジネスパーソンにも応用できるテクニックです。
4.「2度の不合格」を乗り越えたメンタルと「勉強=気分転換」説
5年間の道のりは、決して順風満帆ではありませんでした。彼女は過去に2度、司法試験に落ちています。
ネガティブな思考との戦い
「一生受からないかもしれない」
「私はバカなんじゃないか」
2度目の不合格の後、彼女もまた、暗いトンネルの中を彷徨いました。
司法試験は現在、法科大学院修了後などの受験資格を得てから「5年以内に5回まで」しか受けられないという制限があります(※いわゆる「失権」制度)。
「あと〇回しかない」というプレッシャーは、想像を絶するものだったはずです。
しかし、彼女を救ったのは「自分自身」でした。
これまで積み上げてきた努力を知っているのは自分だけ。「ネガティブになって自分自身の足を引っ張ってどうするんだ」と、自らを鼓舞し、自分を大切にすることで立ち直ったのです。
勉強は「ママ」を脱ぐ時間
興味深いのが、彼女が「勉強自体が気分転換だった」と語っている点です。
普通なら「勉強=辛いもの」と考えがちですが、彼女にとっては違いました。子育ては、自分の思い通りにならないことの連続です。対して勉強は、自分がやればやるだけ知識として積み上がる「自分のための時間」。
「勉強より子育ての方がずっと大変」
この言葉に、世のお母さんたちは深く頷くのではないでしょうか。社会的な役割や母としての役割から離れ、純粋に「個」として難問に向き合う時間は、彼女にとって精神的なリフレッシュでもあったのです。
もちろん、大好きな韓国ドラマや読書を封印する辛さはありましたが、「他の受験生に置いていかれる」という強迫観念をエネルギーに変え、走り続けました。
5.家族の「静観」というサポートと、お弁当の味
家族の理解なしに、この挑戦は成立しなかったでしょう。しかし、そのサポートの形は「家事を全部代わってくれる」といった類のものではありませんでした。
夫の最大の功績は「何も言わないこと」
ご主人は、彼女に対して「頑張ってね」というスタンスで静観していたそうです。
一見、冷たく感じるかもしれませんが、過度なプレッシャーをかけず、かといって反対もせず、彼女の意志を尊重して見守る。これは実は、最も高度でありがたいサポートの形かもしれません。
「手作り」にこだわらない勇気
ロースクール(法科大学院)の授業がある日は帰りが遅くなります。そんな時、彼女は無理して夕飯を作りませんでした。
早稲田大学近くのお弁当屋さんで弁当を買い、家族みんなで食べる。
「手作りの夕飯じゃなきゃダメだ」という固定観念を捨て、使えるリソースは何でも使う。
子供たちにとっても、お母さんが夢に向かって頑張っている姿を見ながら食べるお弁当は、きっと特別な味がしたはずです。
「子供はお母さんにずっと自分を見てほしいと思っている」という言葉を投げかけられたこともあったそうですが、彼女は揺らぎませんでした。「一人の母親として、私がどうしたいか」を貫いたのです。
子供が起きている時間は全力で子供と向き合い、寝ている時間は全力で自分の夢に向き合う。そのメリハリこそが、彼女流の愛情表現だったのでしょう。
6.「フリーアナ卒業」の決断と、これからの山本モナ
見事合格を手にした彼女ですが、今後の展望も明確です。
メディアでの経験を「法曹界」へ
現在フリーアナウンサーという肩書きを持っていますが、司法修習(※合格後の研修期間)を終える2027年4月には、その肩書きを捨てると明言しました。「弁護士一本」で生きていく覚悟です。
就職先として内定している法律事務所では、企業法務を中心に活動する予定とのこと。特に、元々メディア業界にいた強みを活かし、AIや著作権などの知的財産権(※音楽や映像、技術などの権利を守る法律分野)に関わる問題に取り組みたいと語っています。
過去のキャリアを捨てるのではなく、新しい専門性と掛け合わせることで、唯一無二の弁護士になる。この「キャリアの再構築」の視点は、リスキリングを目指す全ての人にとって大きなヒントになります。
7.すべての女性へ。「両立」という呪縛からの解放
インタビューの最後、彼女が語ったメッセージが非常に印象的でした。それは「両立」という言葉に対する新しい解釈です。
「両立=両方100点」ではない
私たちはつい、「仕事と家庭の両立」と聞くと、仕事もバリバリこなし、家事も育児も完璧にこなすスーパーウーマンを想像してしまいます。そして、そうなれない自分を責めてしまいます。
しかし、山本モナさんは言います。
「両立とは、両方を完璧にやることではない」と。
家が多少汚れていても、死にはしない。
夕飯がお弁当でも、子供は元気に育つ。
その時々で「今、一番大事なこと(プライオリティー)」を見極め、それが回っていればそれでいい。
彼女は「100点じゃなくていい」と自分を許すことで、5年間の長丁場を走り抜くことができました。
おわりに
山本モナさんの司法試験合格。
それは単なる「有名人のニュース」ではなく、限られた時間の中で夢を追いかけるための具体的なメソッドと、自分を追い詰めすぎないためのマインドセットの宝庫でした。
* **隙間時間は場所を選ばず全て使う。**
* **睡眠時間は削るが、メリハリをつける。**
* **勉強を「自分のための癒やしの時間」と捉え直す。**
* **完璧を目指さず、優先順位を守る。**
もしあなたが今、「時間がない」と何かを諦めそうになっているなら、まずは5分、スマホを置いてテキストを開いてみませんか?
彼女が証明してくれたように、その小さな積み重ねの先にしか、見たことのない景色は広がっていないのですから。
「弁護士・山本モナ」のこれからの活躍が、今から楽しみでなりません。そして私たちも、今日のお弁当を買って帰ることに、少しだけ胸を張ってもいいのかもしれませんね。
