「歴史が苦手なら、まず漫画を読ませよう」
家庭学習の方法として、よく聞くアドバイスです。たしかに歴史漫画には、人物や出来事を身近に感じやすいという良さがあります。文章だけの教科書より読みやすく、歴史に興味を持つきっかけにもなるでしょう。
ただ、漫画を何冊も読んだのに、テストになると点が取れない子もいます。
徳川家康や織田信長の話は知っている。それなのに、「室町時代の次は?」「大政奉還と明治維新はどちらが先?」と聞かれると止まってしまう。これは、歴史を知らないのではありません。頭の中で出来事の順番がつながっていないのです。
そんな子には、漫画を買い足す前に、年表を一枚貼ってみてください。
年表の役割は、年号を丸暗記させることではありません。歴史全体の流れを、いつでも見渡せるようにすることです。使い方さえ間違えなければ、歴史への苦手意識を軽くする助けになります。
歴史が苦手な子は「知識」より「順番」でつまずく
人物や出来事をバラバラに覚えている
歴史の勉強では、覚えることが次々に出てきます。
人物名、年号、戦い、法律、文化、外国との関係。授業が進むほど情報が増えるため、子どもの頭の中には、整理されていない知識がたまっていきます。
たとえば、次の言葉を知っている子は少なくありません。
– 鎌倉幕府
– 元寇
– 応仁の乱
– 戦国時代
– 江戸幕府
ところが、この五つを正しい順番に並べるとなると、急に自信がなくなります。言葉は覚えていても、歴史のどこに置けばいいのかわからないからです。
本棚にたとえるなら、本はあるのに分類されていない状態です。必要なときに取り出せないため、「覚えたはずなのに解けない」が起こります。
ここで親が「もっと暗記しなさい」と言っても、整理されていない情報が増えるだけになりがちです。必要なのは、知識を追加することより、置き場所をつくること。その土台になるのが年表です。
テストでは出来事の前後関係が問われる
学校のテストや入試では、用語そのものだけでなく、時代の流れを理解しているかが問われます。
「次の出来事を古い順に並べなさい」
「この改革が行われた背景を答えなさい」
「同じ時期に外国では何が起きていたか選びなさい」
こうした問題に答えるには、一つひとつの知識を線でつなぐ必要があります。歴史漫画で場面を覚えていても、その場面が全体のどこにあるのかわからなければ、正解までたどり着けません。
反対に、年表で大きな流れが見えている子は、「これは江戸時代の後半だから、鎖国が始まる前ではない」と考えられます。細かい年号を忘れても、順番から答えを絞れるのです。
歴史が苦手な子に必要なのは、最初から完璧な暗記ではありません。「この出来事は、このあたり」と位置をつかめることです。
漫画より先に年表をすすめたい理由
漫画は深く読めても全体を見渡しにくい
歴史漫画は、人物の表情や会話、当時の暮らしをイメージするのに向いています。ただし、一冊ずつ順番に読む必要があり、全体像を一度に見ることはできません。
好きな時代の巻だけ読む子もいます。戦国時代は詳しいのに、奈良時代や明治時代はほとんど知らない、という偏りも起こります。
これは漫画が悪いのではなく、道具の役割が違うからです。
漫画は、一つの時代を近くから見る道具。年表は、歴史全体を遠くから見る道具です。
歴史が苦手な子は、細部に入る前に「どこからどこへ進んだのか」を見失っていることがあります。まず年表で地図を持たせ、そのあとに漫画で詳しく見る。この順番のほうが、読んだ内容を整理しやすくなります。
年表なら一目で「前と後」がわかる
年表の強みは、視線を少し動かすだけで前後関係を確認できることです。
「豊臣秀吉の次に徳川家康が出てくる」
「江戸幕府が終わってから明治時代になる」
「二度の世界大戦の間には、それほど長い時間がない」
こうした関係を、説明だけで理解するのは簡単ではありません。年表なら、出来事の距離や並びを目で確かめられます。
子どもが「明治維新って江戸時代?」と聞いたときも、親が長く説明する必要はありません。「年表ではどこにある?」と一緒に探せば十分です。
自分で位置を見つけた経験は、ただ答えを教えられるより記憶に残りやすくなります。年表を、正解を見る表ではなく、答えの場所を探す地図として使うのがコツです。
家庭に貼る年表はシンプルなものでいい
情報量が多すぎる年表は避ける
せっかく貼るなら詳しい年表を選びたくなりますが、情報量が多すぎるものは逆効果になることがあります。
小さな文字で人物名や年号がびっしり書かれていると、歴史が苦手な子ほど見る気をなくします。勉強が得意な大人には充実した資料でも、子どもには「覚えるものが増えた」と感じられるからです。
最初の一枚は、次の内容が見やすければ十分です。
– 縄文から現代までが一枚で見られる
– 時代区分が色分けされている
– 代表的な人物や出来事に絞られている
– 少し離れても文字が読める
– 日本史の流れが上から下、または左から右に統一されている
細かい年号をすべて載せたものより、「時代の境目」がはっきりした年表を選びましょう。小学高学年なら、重要人物と代表的な出来事が載っている程度で構いません。中学生でも、最初は基本版のほうが使いやすい場合があります。
貼る場所は机の正面でなくてもいい
年表というと、勉強机の前に貼るイメージがあります。ただ、机に座る時間が短ければ、目に入る回数も増えません。
おすすめは、子どもが日常的に通る場所です。
– リビングの壁
– ダイニングテーブルの近く
– 廊下
– トイレの壁
– 本棚や家庭学習スペースの横
大切なのは、集中して眺める場所より、何度も自然に目に入る場所を選ぶことです。
ただし、家中を教材だらけにする必要はありません。子どもによっては、どこにいても勉強を監視されているように感じます。まずは一枚だけ貼り、反応を見てください。
インテリアになじまないことが気になるなら、額に入れたり、ボードに貼ったりしてもいいでしょう。親が負担に感じない形にすることも、続けるうえでは大事です。
年表を「貼っただけ」で終わらせない使い方
一日一回、十秒だけ場所を確認する
年表は、長時間覚え込むための教材ではありません。毎日少しずつ位置を確認するほうが使いやすくなります。
学校で鎌倉時代を習った日なら、「今日出てきたのは、このへんだね」と指をさす。それだけで構いません。
ニュースで選挙の話題が出たら、「日本で選挙が始まったのは、どの時代だったかな」と探してみる。大河ドラマで歴史上の人物が出てきたら、その人物がいた時代を見る。日常の話題と年表をつなぐと、歴史が教科書の中だけの話ではなくなります。
ここで小テストのようにしないことが大切です。
「これ、何年?」
「前にも教えたよね?」
「こんなのもわからないの?」
こうした聞き方が続くと、年表を見るたびに試されている気分になります。子どもが答えられなくても、「じゃあ一緒に見よう」で終わらせてください。
年表に触れる回数を増やすことが目的です。正解できるかどうかは、あとからついてきます。
親は先生ではなく案内役になる
親が歴史に詳しくなくても問題ありません。むしろ、知ったふりをせず一緒に探すほうが、子どもは年表を使いやすくなります。
たとえば、子どもが「西郷隆盛はいつの人?」と聞いたら、すぐ検索する前に年表を見ます。
「名前は聞いたことがあるけど、どこだっけ」
「江戸の終わりと明治の始め、このあたりみたいだね」
この程度の会話で十分です。親が年表を使う姿を見せると、「わからないときに調べる道具」として定着します。
歴史の知識を披露する必要はありません。子どもに教え込むより、場所を一緒に見つける。そのくらいの距離感がちょうどいいでしょう。
学校の単元に印をつける
年表に書き込めるなら、学校で習っている範囲に小さな印をつける方法もあります。
今週が平安時代なら、その部分に付箋を貼る。テスト範囲の始まりと終わりを、剥がせるテープで示す。すると、子どもは「今回は歴史全体の中のここを勉強している」と理解できます。
付箋には、一つだけ言葉を書きます。
「貴族の時代」
「武士が力を持つ」
「外国との関係が変わる」
細かい用語を並べるのではなく、その時代をひと言でつかめる表現にしてください。子ども自身に考えてもらってもいいでしょう。うまく言えないときは、教科書の見出しから選べば十分です。
よくある失敗と立て直し方
年号暗記の表にしてしまう
年表を貼ると、つい「1192年は何?」「1603年は?」と聞きたくなります。しかし、最初から年号暗記に使うと、年表そのものを嫌がる可能性があります。
まず覚えたいのは、時代の順番です。
縄文、弥生、古墳、飛鳥、奈良、平安。次に、武士の時代がどのように移り変わったかを見る。そのあとで、必要な年号を出来事の位置に結びつけます。
年号は住所の番地のようなものです。地域も道順もわからない状態で、番地だけ覚えても使いにくいでしょう。先に大まかな地図を頭に入れれば、年号にも意味が生まれます。
貼って満足してしまう
年表を貼った初日は見ても、数日たつと風景の一部になります。これは珍しいことではありません。
対策は、見るきっかけを生活の中につくることです。
夕食の前に一か所だけ見る。宿題が終わったら、その日に習った時代を指す。日曜日に一枚だけ付箋を貼る。無理なく繰り返せる行動を決めておきます。
毎日できなくても構いません。三日空いたからといって、まとめて覚えさせる必要もありません。気づいた日に十秒見る。それを何度も積み重ねるほうが現実的です。
漫画を完全にやめさせてしまう
「年表のほうがいいなら、漫画はもういらない」と考える必要はありません。年表と漫画は競争相手ではなく、役割の違う教材です。
年表で時代の位置を確認し、興味を持った人物を漫画で読む。漫画を読んだあとに、出来事を年表で探す。この往復ができると、物語と順番が結びつきます。
たとえば戦国時代の漫画を読んだら、「このころ、室町幕府はどうなっていた?」と年表を見ます。明治時代の漫画なら、「江戸時代が終わってから何年くらい?」と確認します。
漫画だけ、年表だけと決めなくて大丈夫です。歴史が苦手な子には、まず全体の置き場所を年表でつくり、漫画をそこに結びつける。この使い分けが向いています。
今日から始める三つの手順
最初から立派な学習計画をつくる必要はありません。次の三つだけ試してみてください。
1. 歴史全体を一枚で見渡せる年表を用意する
2. 子どもが毎日通る場所に一枚だけ貼る
3. 学校で習った時代を一日十秒、一緒に探す
一週間続けたら、時代名を古い順に言えるか確認します。言えない部分があっても、叱ったり、すぐ暗記させたりしません。年表を見ながら並べ直せれば、それで前進です。
慣れてきたら、人物や出来事を一つずつ足します。「聖徳太子は飛鳥時代」「織田信長は戦国時代」というように、知識を置く場所を決めていきましょう。
歴史が苦手なのは、覚える力がないからとは限りません。出来事をしまう棚が、まだ頭の中にできていないだけかもしれません。
漫画を読ませても手応えがなかったら、次の一冊を買う前に年表を一枚貼ってみる。親が教え込むのではなく、子どもと一緒に場所を探す。そこから始めれば、歴史は「覚えても消える科目」から、「流れをたどればわかる科目」へ少しずつ変わっていきます。
