「計算問題はできるのに、文章題になると手が止まる」
そんな子を見ていると、親としては不思議に感じますよね。
たし算も引き算もできる。九九も覚えている。それなのに、文章題を前にすると、何をすればいいのかわからなくなる。とりあえず問題に出てきた数字を足したり、勘で式を作ったりすることもあります。
でも、これは計算力が足りないからとは限りません。
多くの場合、つまずいているのは「文章に書かれた状況を頭の中で組み立てるところ」です。ここで役に立つのが、問題の内容を絵にする方法です。
上手な絵は必要ありません。丸、線、矢印が描ければ十分です。文章だけでは見えなかった数の関係が、紙の上に現れます。
この記事では、文章題を絵にする理由から、家庭での教え方、うまくいかないときの対処まで具体的に紹介します。
文章題が苦手なのは、計算ができないからではない
文章題には、計算以外の作業がいくつも含まれています。
子どもは問題を読みながら、次のことを同時に考えています。
– 誰が出てくるのか
– 何が増えたのか、減ったのか
– どの数字とどの数字が関係するのか
– 何を聞かれているのか
– どの計算を使えばいいのか
大人には短い文章でも、子どもにとっては情報が詰まっています。特に低学年では、文章を読み終えるころに最初の情報を忘れてしまうことも珍しくありません。
たとえば、次の問題を見てみましょう。
「赤い折り紙が8枚、青い折り紙が5枚あります。赤い折り紙を3枚使いました。残っている折り紙は全部で何枚ですか」
数字は8、5、3の三つです。
数字だけを追う子は、全部を足して「8+5+3」とするかもしれません。しかし、3枚は新しく増えた折り紙ではなく、8枚の中から使った分です。
必要なのは、まず赤い折り紙が減ったことを理解し、そのあと青い折り紙と合わせることです。
この整理が頭の中だけでは難しい。そこで絵を使います。
絵を描くと、数字の役割が見えてくる
先ほどの問題なら、赤い折り紙を丸八つ、青い折り紙を丸五つで表します。そして、赤い丸のうち三つに斜線を引きます。
すると、残っている赤い丸は五つ。青い丸も五つあります。
ここまで見えれば、
「赤は5枚残っていて、青は5枚ある。だから5+5だね」
と式を作れます。
大切なのは、絵が答えを教えてくれることではありません。文章の中に隠れていた「数字の役割」を見せてくれることです。
同じ数字でも、最初からあった数なのか、増えた数なのか、使った数なのかで扱いは変わります。文章題が苦手な子は、この役割分けがまだ安定していません。
絵を描けば、「この3は消す数」「この5はあとから合わせる数」と目で確認できます。頭の中だけで情報を持ち続けなくてよくなるため、考える負担も軽くなります。
描かせるのは「作品」ではなく関係図
子どもに「絵を描いてみて」と言うと、丁寧に人物や物を描き始めることがあります。
りんごの問題なら、葉や茎まで描く。電車の問題なら、車輪や窓にこだわる。これでは時間がかかり、肝心の数量関係が見えにくくなります。
文章題で必要なのは、上手な絵ではありません。数と動きがわかる簡単な印です。
低学年は丸と斜線で十分
物の個数を扱う問題では、一個を一つの丸で表します。
たとえば、
「みかんが12個あります。4個食べました。残りはいくつですか」
という問題なら、丸を12個描き、4個に斜線を引きます。
残った丸を数えれば8個です。そのあとで「12-4=8」と式にします。
ここで、いきなり式を聞かないことがポイントです。
先に「最初はいくつ?」「食べた分はどうしようか」と尋ねます。子どもが斜線を引けたら、状況はかなり理解できています。
数が大きくなったら線に置き換える
30個、50個と数が大きくなると、丸をすべて描く方法は使いにくくなります。その段階では、一本の線で全体を表します。
「本を35ページ読みました。残りは18ページです。本は全部で何ページありますか」
この場合は、一本の線を二つに分けます。片方に35、もう片方に18と書き、線全体に「?」を付けます。
絵を見ると、35ページと18ページを合わせたものが全体だとわかります。文章に「残り」と書かれていても、求めるのは全体なので、式は「35+18」です。
文章中の言葉だけで計算を決めると、「残りだから引き算」と考えがちです。線で関係を表せば、その思い込みを減らせます。
親は答えではなく、絵になる質問をする
子どもが止まると、つい「これは引き算でしょ」と教えたくなります。
その場では正解できますが、次の問題でもまた親の助けが必要になります。子どもが自分で判断したわけではないからです。
代わりに、絵へつながる質問をしてみてください。
– 最初にあったのはいくつ?
– あとから増えたのはどれ?
– なくなったものはある?
– 同じもの同士はどれ?
– 最後に聞かれているのは何?
– この数字は絵のどこに入る?
たとえば、「公園に子どもが7人いました。あとから4人来ました」という問題なら、「あとから来た4人は、増えるのかな、減るのかな」と聞きます。
子どもが「増える」と答えたら、最初の7人を丸で描き、その横に4人分を付け足します。式は、そのあとです。
「何算?」と聞くより、「絵ではどうなる?」と聞いたほうが、子どもは問題の場面を考えます。
文章題を絵にする4つの手順
家庭では、次の順番にすると取り組みやすくなります。
1.聞かれている部分に線を引く
最初に「何を求める問題なのか」を確認します。
「全部で何個」「残りは何人」「何個多い」など、質問の部分に線を引きます。ここが曖昧なままだと、途中まで正しく考えても違う答えを出してしまいます。
2.登場するものを簡単な印にする
人なら丸、距離なら線、お金なら四角など、描きやすい印で構いません。実物そっくりにする必要はありません。
兄と弟の数を比べる問題なら、兄の列と弟の列を上下に並べます。端をそろえると、どちらが多いか、差はいくつかが見えやすくなります。
3.増減や移動を描き足す
増えた数は横に付け足す。減った数は斜線で消す。移動したものは矢印で示す。
たとえば、「青い箱から赤い箱へ3個移しました」という問題なら、青い箱から赤い箱へ矢印を描き、その上に3と書きます。
このひと手間で、どちらが増えて、どちらが減るのかを取り違えにくくなります。
4.絵を見ながら式を作る
最後に式を書きます。
順番は「文章を読む→すぐ式を書く」ではなく、「文章を読む→絵にする→式にする」です。
慣れてくると、子どもは絵を簡略化します。やがて頭の中で図を思い浮かべ、式まで進めるようになります。最初から絵を省かせる必要はありません。
学年に合わせて絵の描き方を変える
絵を使う方法は低学年だけのものではありません。ただし、学年が上がったら表し方を少しずつ変えていきます。
小学1・2年生は具体的な絵
この時期は、丸や棒を実際の個数だけ描く方法がわかりやすいです。
たし算なら付け足す。引き算なら消す。まずは、計算と目の前の動きを結びつけます。
ただし、丸をきれいに並べることを求めすぎないでください。少しくらい形が崩れていても、数の変化が読み取れれば十分です。
小学3・4年生は線分図や箱図
かけ算、わり算、倍の問題が増えると、物を一個ずつ描く方法では追いつきません。
「1箱に6個入ったお菓子が4箱ある」なら、同じ大きさの箱を四つ描き、それぞれに6と書きます。これで「6が4つ分」という関係が見えます。
「24個のお菓子を6人で同じ数ずつ分ける」なら、6人分の箱を描き、24を均等に分けるイメージを持たせます。
かけ算とわり算は式だけ見ると混同しやすいのですが、絵では動きがまったく違います。
小学5・6年生以降は関係だけを図にする
割合、速さ、比になると、具体的な物を描くより、線や表で関係を整理したほうが便利です。
たとえば、「定価の20%引き」なら、全体を100%とした線を描き、20%分を切り取ります。残りが80%だと目で確認してから式を作ります。
中学生の方程式でも考え方は同じです。わからない数を箱や \(x\) として置き、わかっている数との関係を図にします。
絵を描くことは幼い方法ではありません。複雑な情報を整理するための、立派な思考の道具です。
絵を描いてもうまくいかないときの対処法
絵を描かせれば、どの子もすぐ解けるわけではありません。つまずき方に合わせた調整が必要です。
問題文と関係のない絵を描いてしまう
細かい絵に夢中になる場合は、親が最初の一つだけ描いて見せます。
「りんごは丸でいいよ。人も丸で表そう」
このように、絵の目的を短く伝えます。「きれいに描かなくていい」ではなく、「数がわかる印にしよう」と言ったほうが伝わりやすいでしょう。
すべての数字を絵に入れてしまう
文章題には、計算に使わない数字が含まれることもあります。
その場合は、「この数字は、聞かれていることとどう関係する?」と確認します。答えられなければ、いったん絵の外に置いて構いません。
数字を見つけたら全部使うのではなく、役割を確かめる習慣をつけます。
絵は合っているのに式を間違える
これは悪いつまずきではありません。状況は理解できているので、絵と式の対応を確かめれば直せます。
「この斜線は、増やしたのかな、減らしたのかな」
「この二つのまとまりは、合わせるのかな、分けるのかな」
と聞き、絵の動きを言葉にさせます。「減ったから引き算」のように、動きと計算を結びつけることが大切です。
絵を描くのを嫌がる
計算が速い子ほど、「絵なんて面倒」と感じることがあります。その場合、すべての問題で描かせる必要はありません。
間違えた問題や、式がすぐに決まらない問題だけで使います。
「絵を描きなさい」ではなく、「この問題、10秒だけ図にしてみない?」と声をかけると、抵抗が小さくなります。
やってはいけない親の教え方
家庭学習で避けたいのは、計算を決める言葉だけを覚えさせることです。
– 「全部で」と書いてあったら、たし算
– 「残り」と書いてあったら、引き算
– 「分ける」と書いてあったら、わり算
こうした覚え方は、簡単な問題では通用します。しかし、少しひねられると間違えます。
「何人か帰ったあと、残りが8人です。最初は13人いました。何人帰りましたか」
この問題には「残り」がありますが、求めるのは減った人数です。言葉だけで判断するのではなく、最初の13人から何人かが抜け、8人になった絵を描く必要があります。
もう一つ避けたいのが、親が完成した図を描いてしまうことです。
親の図を見れば答えられても、自分で情報を整理する力は育ちません。最初の丸や線だけを描き、続きは子どもに任せてください。
間違った絵を描いても、すぐ消さなくて大丈夫です。
「この3人は、どこから来たの?」
「この線は何を表している?」
と聞けば、子ども自身がずれに気づくことがあります。正しい絵を与えるより、自分で直した経験のほうが次に残ります。
今日からできる10分練習
特別な教材は必要ありません。教科書や宿題の文章題を一問だけ使います。
1. 問題を声に出して読む
2. 聞かれているところに線を引く
3. 丸や線で状況を描く
4. 絵の内容を子どもの言葉で説明する
5. 絵を見ながら式を書く
6. 答えが場面に合っているか確認する
これを毎日一問、5分から10分ほど続けます。
正解したかどうかだけで終わらせず、「どの数字をどこに描いたか」を聞いてみてください。子どもが説明できれば、文章と式がつながり始めています。
最初のうちは、親が「絵にして」と声をかけても構いません。慣れてきたら、困ったときに自分から余白へ図を描くようになります。
文章題の力は、解き方を暗記しただけでは安定しません。書かれている場面を思い浮かべ、数の関係を整理できるようになって初めて、初めて見る問題にも対応できます。
計算はできるのに文章題で止まるなら、式を急がせないでください。
まず、丸を描く。線を引く。減った分を消す。
それだけで、文章の中に埋もれていた関係が見えてきます。
今日の宿題で一問だけ、「これ、絵にするとどうなる?」と聞いてみてください。「何算なの?」と尋ねるより、子どもが自分で考えるきっかけになります。
