親の錯覚が問題をつくる
命令されたことはすぐ実行する。注意されるとすぐにそれを直す、自分の子供がこのような子供であればどんなに楽だろう、と考える親は多いものです。
確かに、命令されてすぐ行動に移れるという能力は優れたものとして評価しなければなりません。しかし、それを、言うことをよく聞くいい子供、と親が錯覚してしまうと、これは厄介な問題に発展しがちです。
なぜならそこには、表面的な約束だけを守ればよし的な考えが生まれる恐れがあるためです。
一見、特に目立った問題がない理想的な親子関係に見えても、そこには何かしらの問題が必ずあるはずなのです。子供は親の押さえつける権力に従ってそうしているだけのことであって、内心辛い思いをしている場合だってあります。
それが毎日の生活の中で積み重なるとどうでしょうか。子供の不満はある日何かしらのきっかけで一気に爆発し、理想的に見えた親子の関係はもろくもくずれてしまいます。
親は、何も起こらないから安心、自分の思いどおりに育ってくれてるから大丈夫、などと考えてはいけません。子供も一個の人格を持った人間なのです。例え表面的には表れていなくても、心の中には
親に対するイライラが必ずあるものなのです。
目に見える健全さ
むしろ、問題は目に見えたほうが健全であると言えると思います。親に逆らうように見えても、実は自分を主張する子供の方を評価するべきです。なぜなら、そこには必ず本人の工夫する姿勢が見られるからです。
親の命令通りに実行するより、こちらの方が早く終わる、あるいはこうした方が効果的であると、子供は考えて親の指図通りには動きません。
親は、このような子供の一種反抗的な行動の中に、子供なりの自主性を発見しなければなりません。
危険なのは、常に親の指示通りに動く子供です。彼らにとっては、親が満足すればつらい仕事から解放されるのであって、そこに少しも自分自身が反映されていません。
勉強の場合も同様です。表面的には勉強したようであっても中身の充実さでは、どんどん差が開いていくことは明白です。親の目には、ひねくれた素直じゃない反抗的な子供、と思われても、実はこんな子供は案外多くの知恵を身につけ本来の力を高めていったりするものです。
無感動・無関心・無趣味
一方で、何に対しても無感動な若者たちが増えてきています。他人の痛みも苦悩も理解できず、あるいは友達の遊び自体にも共感できません。
自分が一体何をすればよいのか、どう生きて行けばいいのか、何もかもわからないままで、彼らは大人になるのでしょう。
仕事や結婚、家庭、育児、彼らにはこれから先様々な困難が待ち受けています。これで大丈夫なのか、本当に乗り越えていけるのか、他人事ながら心配でなりません。
何故このような無感動な若者たちが増えたのでしょう。私も長年教育に携わってきた立場ですが、現代の教育制度、特に受験教育がその最たる原因の一つであると考えます。
遊び盛りで好奇心旺盛、多感な思春期という時期に、子供達を競争に駆り立て、机に縛り付けることにより、生き生きとした情緒生活が失われてしまっていると考える大人は私だけではないでしょぅ。
確かにこのような現実はあると思いますが、私は、教え子の中にそうした厳しい環境に置かれても、のびのび明るく生きている子供たちを知っています。勉強と遊びを両立させている子供にも数多く接してきました。
気持ちは「持ち様」
どんなに辛い環境に置かれても決して自分を見失わない人がいます。逆に、たちまち意気消沈し、前向きな希望を抱けなくなるような人もいます。どうしてこのようなハッキリと別れるタイプが生まれるのでしょう。
大人の世界には、ユニークな発想をする人がいます。ある人は、毎日の仕事はつらいと言いながら、それでいて人の倍の早さで働き仕事をこなします。
早く仕事を終わって自分の時間を楽しみたいと言いますが、けっこう仕事を楽しんでいるように見られたりします。
自分がやりたい楽しいことがある。だから、辛いことにも耐えられる、辛い受験勉強に勇気をもって立ち向かうか、そこから逃げてしまうかの差は、こうした姿勢の有無から生まれてくる気がします。
大切なことは、勉強以外に、熱中できる何かを持っているかどうかです。あるいは、将来の確固たる目標と言っていいかも知れません。最も理想的なのは、それが勉強そのものである場合です。つまり、趣味と勉強が同等の関係であればこんなに楽しいことはないでしょう。
しかし、このようなタイプは多くはないです。趣味と勉強を比較すれば、やはり勉強が辛いのは当たり前なのです。勉強以外に熱中できる何かがあるということは、受験を乗り切るための大きな武器になるのではないでしょうか。
熱中する姿勢が豊かな感情を育む
しかしながら、自分の子供が何か熱中できるものをもているのかどうかは、気づいていない親は多いものです。
子供は、概して何かの遊びに熱中するものです。虫を追いかけながら動物と触れ合いながら、テレビや映画の場面に目を丸くしながら、子供達は心を広げていきます。そんな時こそ、笑いや涙が溢れます。
つまり、豊かな感情を育んでいくのです。そして、このような経験が少ない場合は、豊かな感情を発揮する方法を知らないままに成長してしまいます。
親は、受験という理由で、子供が熱中しているものを取り上げてはなりません。どうすれば、両立できるかどちらかに偏ることなく上手くやりくりできるかということをアドバイスするべきなのです。