その「わかんない」、実はSOSのサインかも?
「教科書のここ、読んでごらん」
そう言って子供に音読をさせてみても、スラスラ読めている。なのに、「じゃあ、この主人公はどうして泣いたの?」と聞くと、キョトンとして「わかんない」と答える。
あるいは、算数の計算ドリルはあっという間に終わるのに、文章題になった途端に鉛筆が止まり、「これ、足し算?引き算?」と当てずっぽうに聞いてくる。
そんな姿を見て、「うちの子、もしかして読解力がないんじゃ……」と不安に押しつぶされそうになっていませんか?
周りのママ友が「うちはハリーポッター読んでるよ」なんて言おうものなら、焦りは募るばかりですよね。
でも、どうか安心してください。
お子さんは決して、能力が低いわけではありません。ただ、**「文字を頭の中で映像にするスイッチ」の入れ方**を、まだ知らないだけなのです。
この記事では、「読解力がない子」に見られる具体的な特徴を整理しつつ、高価な教材や厳しい塾に頼らず、**毎日の「親子の会話」だけで読解力をぐんぐん伸ばす裏ワザ**をご紹介します。
読解力は、国語のテストのためだけの力ではありません。
お子さんが自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを知るための、一生モノの「生きる力」です。
さあ、今日から家庭でできる、楽しい言葉のトレーニングを始めましょう。
第1章:「読解力がない」ってどういうこと?家庭で気づく3つの特徴
「読解力がない」と一口に言っても、その現れ方は子供によって様々です。
テストの点数だけを見ていると気づきにくい、家庭生活の中に隠れている「サイン」を見逃さないことが、解決への第一歩です。
ここでは、代表的な3つの特徴(サイン)をご紹介します。
特徴1:「あれ」「それ」こそが会話の主役になっている
「ママ、あれ取って!」
「ほら、あそこにあるやつ!」
日常会話が指示代名詞(あれ、それ、これ)ばかりになっていませんか?
親御さんは勘がいいので、「ああ、リモコンね」「冷蔵庫のジュースね」と先回りして理解してしまいがちです。
しかし、これが実は落とし穴。
読解力が弱い子は、具体的な名詞を頭から引っ張り出すのが苦手な傾向にあります。自分から言葉にしなくても通じてしまう環境が、「言葉にする力」の育ちを止めている可能性があるのです。
特徴2:算数の計算は早いのに、文章題でフリーズする
これは非常に多い相談の一つです。
「100円のりんごを3つ買いました」という文章を見たとき、読解力がある子は頭の中に「赤いりんごが3つ並んでいる絵」や「お買い物かご」が浮かびます。
しかし、読解力が弱い子は、「100」「3」という**数字だけ**を拾ってしまいます。
その結果、文脈(ストーリー)が見えず、「数字はあるけど、これをどうすればいいの?」と混乱してしまうのです。これは算数の問題ではなく、明らかに「読み解く力」の問題です。
特徴3:「どうして?」と聞かれると黙り込んでしまう
「学校どうだった?」
「楽しかった」
「何が楽しかったの?」
「……別に」「全部」
このように、具体的なエピソードを話すのが苦手なのも特徴です。
また、本を読んだ後に「どうして主人公は怒ったと思う?」と理由(因果関係)を問われると、フリーズしてしまったり、「なんとなく」と答えたりします。
これは、物事の「原因」と「結果」を結びつけて理解する力がまだ弱いサインです。文章の流れ(ストーリーライン)を追えていないため、部分的な記憶しか残っていないのです。
第2章:なぜ読めないの?子供の頭の中で起きている「映像化エラー」
特徴がわかったところで、なぜそうなってしまうのか、プロの視点から少し深掘りしてみましょう。
読解力がある子とない子、決定的な違いは**「脳内スクリーン」**の有無です。
文字を「記号」として処理している
小説を読むとき、私たちは無意識に頭の中で映画のような映像を再生しています。「冷たい雨が降っていた」と読めば、肌寒さや雨音を想像しますよね。
しかし、読解力が苦手な子は、文字をただの「記号の羅列」として目で追っています。
「つ・め・た・い・あ・め」という文字情報は入ってきますが、そこから「情景」や「感情」への変換が行われていません。
映像がないので、読み終わった瞬間に内容が消えてしまうのです。これが「読んだのに覚えていない」の正体です。
語彙の「深さ」が足りない
もう一つは、「言葉の意味」を知っているようで、実はあやふやなケースです。
例えば「切ない」という言葉が出てきたとき、辞書的な意味を知っていても、「胸がキュッとなる感じ」という**実感**が伴っていないと、登場人物の気持ちを深く理解することはできません。
この「実感のある言葉(語彙の深さ)」は、机の上の勉強ではなく、日常の体験や会話の中でしか育たないものなのです。
第3章:ドリル不要!今日からできる「読解力アップ」3つの裏ワザ
「じゃあ、もっと本を読ませなきゃ!」と焦って、無理やり読書をさせるのは逆効果です。文字アレルギーになってしまっては元も子もありません。
ここからは、勉強時間を1分も増やさずに、日常会話の中で楽しく読解力を鍛える「親の裏ワザ」を伝授します。
裏ワザ1:「5W1H」をこっそり混ぜる!インタビューごっこ
今日から、お子さんを「取材対象」だと思って接してみてください。
「学校どうだった?」という漠然とした質問はNG。答えにくいからです。
代わりに、**5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)**を意識した質問を投げかけます。
* **NG:** 「給食美味しかった?」→「うん」で終了。
* **OK:** 「今日の給食、**一番**美味しかったメニューは**何**?」(What)
* **OK:** 「**誰と**一緒におかわりジャンケンしたの?」(Who)
* **OK:** 「**どんな**味がした?甘い?しょっぱい?」(How)
ポイントは、一気に聞かず、会話のキャッチボールの中で一つずつ混ぜること。
具体的に聞かれると、子供は脳内で記憶の映像を再生せざるを得なくなります。この「記憶を再生して言葉にする」作業こそが、最強の読解力トレーニングになります。
裏ワザ2:アニメや漫画でOK!「もしもボックス」会話術
活字が苦手なら、まずは大好きなアニメや漫画を教材にしましょう。
一緒に見ているときに、CMの間などにこう聞いてみます。
「ねえ、もし〇〇くん(子供の名前)がこの主人公だったら、今の敵とどうやって戦う?」
「もし、この後あいつが裏切ったらどうする?」
これは「仮定」と「予測」のトレーニングです。
物語の展開を予測するには、これまでのストーリーを理解し、キャラクターの性格を把握していなければなりません。
「僕ならこうする!」と語り始めたら、しめたもの。
「へえー!それは思いつかなかった!すごい作戦だね!」と驚いてあげましょう。
自分の考えを言葉にして、親に認められる喜びが、言葉への関心を高めます。
裏ワザ3:親がまず「実況中継」!言葉のシャワー作戦
子供の語彙力を増やすには、親が「言葉のサンプル」をたくさん見せることが一番の近道です。
家事をしながら、自分の行動や感情を実況中継してみましょう。
「あー、今日の玉ねぎは目に染みるなぁ。涙が出てきちゃった」
「この洗濯物、太陽の匂いがしてフカフカで気持ちいいね」
「急に雨が降ってきて、すごく残念な気持ちだわ」
単に「忙しい」「疲れた」だけでなく、五感を使った表現や、具体的な感情の言葉を散りばめます。
親が豊かな言葉を使っていると、子供は自然と「そういう時は、そう表現すれば いいんだ」と学び取ります。これが、本を読むときの「イメージの種」になります。
第4章:読解力が上がると、親子の喧嘩が減る理由
読解力を鍛えることは、国語の成績を上げる以上の、もっと大きな「ベネフィット」を家庭にもたらします。
それは、**「癇癪(かんしゃく)」や「親子喧嘩」の減少**です。
子供がキレたり、泣きわめいたりする原因の多くは、「自分のモヤモヤした気持ちを、言葉でうまく説明できない」ことにあります。
「悔しい」「悲しい」「情けない」「羨ましい」……。
たくさんの感情の言葉を知り、それを相手に伝える構成力(読解力のアウトプット版)が身につけば、子供は「わー!」と泣く代わりに、こう言えるようになります。
「僕は今、ゲームで負けて悔しいんだ。だから放っておいてほしい」
自分の状況や気持ちを客観的に把握し、言語化できるようになる。これを「メタ認知」とも呼びますが、読解力はこの能力の土台となります。
親御さんも、「何で泣いてるの!」とイライラすることが減り、「そうか、悔しかったんだね」と共感してあげられるようになります。
読解力は、親子の心の距離を縮める架け橋なのです。
まとめ:焦らずゆっくり。親子の会話が最高のテキスト
最後に、もう一度ポイントをおさらいしましょう。
1. **サインに気づく:** 「あれ・それ」言葉、文章題の苦手意識は、SOSのサイン。
2. **原因を知る:** 知識不足ではなく、「脳内映像」が作れていないだけ。
3. **インタビュー:** 「何が?」「誰と?」と具体的に聞いて、脳内再生を促す。
4. **もしも会話:** アニメや漫画を使って、「自分ならどうする?」と予測させる。
5. **実況中継:** 親が感情や五感を言葉にして、語彙のシャワーを浴びせる。
読解力がない子の特徴に当てはまったからといって、悲観することは全くありません。むしろ、「これから伸びる余地がたくさんある」ということです。
難しいドリルを買い与えて、親子で眉間にシワを寄せるのは今日で終わりにしましょう。
今日のお風呂の中で、「今日の給食、何が一番美味しかった?」と聞くことから始めてみてください。
そのたわいもない会話の積み重ねが、やがてお子さんの「読み解く力」となり、広い世界へ羽ばたく翼となります。
親子の会話を楽しめる家庭の子は、必ず読解力が伸びます。自信を持って、たくさんお喋りしてくださいね。

